ヘリコプターから窓とプロペラに邪魔をされたエベレストを眺めながらカトマンズに帰ってきた僕は、もうカトマンズになんの魅力も感じていなくなっていた。意気揚々としていたtop of the worldに見事に手鼻をくじかれた僕にとってここにいる意味はもうなかったし、ここにいたくなかった。
だから、もう僕はバスに乗っていた。
向かったのは、チトワン国立公園。
ネパールはヒマラヤ山脈に従ってどこも高所だと思っていた僕にとって、平野に草原とジャングルの広がるこの地は新鮮だった。
ジャングルの中は、いろんな音がした。
虫の音、枝の折れる男、葉の落ちる音、何かがそれを踏みしめる音。
中でも1番ジャングルに響いていたのは、クジャクの鳴き声。あの可憐な見た目からは想像できない、太くて大きな声。
野生のクジャクは高い高い木の上にいて、ジャングルに朝を知らせていた。
猿の群れが水を飲み、ワニが日光浴をし、鷹が獲物を見据える。丸まった葉に虫の生活を感じ、鹿の足跡にストーリーをみて、何かの糞に時間をとらえた。僕はその生態系に近づきたくて、息を潜めていた。
沼地に出ると、潜めていた息を、無意識に止めた。
サイがいた。
重厚な鎧をまとっているようなサイは、時折顔を沼に突っ込み、水を飲んでいた。
綺麗だった。シンプルで、力強かった。
ジャングルサファリが終わり、象が飼われている園によった。
餌付けされ、つながれる象をみて、空しさを感じた。
象は、生かされていた。
ジャングルで、動物たちは生きていた。
動物園では見られない、真の姿があり、そこに命を感じた。
だから僕は、園の外でひたすらに生活のために蒔きを割っている男をずっと見ていた。
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