2013年3月23日土曜日

38時間の車窓から

居心地の良いバラナシの、燃え盛る火葬場真裏のゲストハウスの、鼠と蜥蜴が這いずり回る小部屋をあとに僕が目指したのは、南インド最大の都市、チェンナイ。

「暑くなる一方のこの時期は、旅行者はこぞって北へ行く。」

宿主の言葉が、僕の天邪鬼精神が握る舵を南に向かせた。

チェンナイまでは、バラナシの隣駅ムガルサライから、電車で38時間。
3月7日の23時半にムガルサライを出て、3月9日の13時半にチェンナイに着く予定だ。


しかしこれが想像を絶してつまらなく、尚且つ過酷だったのだ。


寝れると聞いて買った一番安いチケットが示す席には、老婆が寝転んでいて、そいつをどかしても、十分に横になれる広さはそこにはなかった。このチケットは、僕に隣の席のインド人と代わる代わる睡眠をとることを強制したのである。


そして24時間首尾一貫して列車に乗ることを全うした3月8日は、記憶にないほどに、直向きにぼーっとしていた。
窓の外を眺めるのも、本を読むのも、音楽を聞くのも、すべて、「ぼーっとする」という行為の延長線上にあって、よって、僕がこの日吸収したものは、これっぽっちも無かった。

こんなにもぼーっとすることが板についてしまうのは、体調が悪いせいではないかと思い始めたのは夕方頃で、前日バラナシ最後の朝食で食べた絶妙な半熟目玉焼きが犯人と思われる腹痛に襲われ、それに便乗するように、昨夜席を譲り合いながら寝たストレスが、微熱や眩暈や吐き気といった、あらゆる形の不具合となって僕を攻め出したのである。

今夜は夜通し横に寝かせてくれという気持ちを、口では言わぬが、表現できるそれ以外の体の部分全てを使って露わにし、半ば強引に足を伸ばしていたら、僕の気の毒さと図々しさが、インド人の優しさを引き摺り出すことに成功し、上のベッドを譲ってもらえた。

しかし僕の本当に情けないところはこの後で、真夜中に目を覚まし、床で寝ている人を踏まぬようにふらふらとトイレに行って、10分ほど下痢を垂れ流し、口に指を突っ込み盛大に吐き散らしたのであった。


こうしてこの1日半にも及ぶ列車の旅は、僕の心を満たすものなに一つ訪れることなく、それどころか、僕の体内にあるエネルギー源と僕の時間感覚を完膚無きまでに吸い取り尽くし、正真正銘空っぽになった僕の体を、きっちり時間通りに、一日中その暑さ止むことのない南インドまで運んだのであった。




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