2013年5月11日土曜日

ヤラレタ

ゴミ一つ落ちていない綺麗な街並み。遠くにそびえる雪を纏った山脈。日光は枝の間を抜けて木漏れ日となり歩道を包む。

そんなのどかな街中で…
僕は顔を真っ青にして、忙しなくバッグの中を漁っていた。
「嘘だと言ってくれ…」
ひと掻きすれば全て見えてしまう小さなバッグの中を、何度も、何度も、取り憑かれたように掻き回していた———。



その日、僕はもうビシュケクの街にも大分慣れて、イシク•クル湖への旅程も決まり、ウキウキしながら銀行を探していた。
なぜ銀行を探していたかというと、米ドルが切れかかっていたからである。キルギスでも、ツアーなどでは特に、米ドルが使えるし、もっと先のことを考えても、米ドルは持っていた方がいい。イシク•クル湖周辺の村はまだまだ未発達であると聞き、ATMや両替所が十分に無いかもしれない。向こうでトレッキングツアーなどに参加するかもしれないし、降ろせるうちに早めに降ろしておいた方がいい。用意周到である。


キルギスソムも少し降ろしておいた方がいいだろうか。今いくらあるか財布の中を確認する。
ビシュケクでは、国境でカザフスタンのテンゲを両替した分で生活出来ていたため、
ビシュケク初日でATMから降ろした5,000ソム(10,000円相当)にはまだ手をつけていない。これは普段バッグの中に眠っていて使っていない財布の中に入れていた。イシク•クル湖観光はこの財布をメインに使ってやりくりするつもりだった。

1,000ソム札と、500ソム札と、200ソム札がそれぞれ何枚ずつあるのかも確認しておこう。我ながら全く抜けめない。



1、2、3、4……………………
…………………………………
…………………………………
…………………………あれ?

いやいやいやいやいやw

1、2、3、4……………………
…………………………………
…………………………………
…………………………あれ?

2,200ソムしかない。
そんなはずはないだろう。
よし、一度記憶を辿ろう。冷静になって。深呼吸だ。キルギスタン着いた日から、今日まで。何に、いくら、使ったか。
案外なんか使っちゃったんだっけかなー?
ああでこうでと思い出す。

うむ…………
やっぱりこの5,000ソムには手を付けてないぞ!!!

そうとわかればもう一度数えればしっかり5,000ソムあるはずである。だって手付けてないんだもんあたり前だろ。

1、2、3、4……………………
…………………………………
…………………………………
…………………………あれ?

やっぱりいくら数えても2,200ソムしかない!!!!
なんで!!!!どゆこと!?!?!?

・・・・まさか!!!!


ー以下 回想ー

あれはそうまさにキルギスタンに着いた日。この5,000ソムを降ろしてわずか30分も経っていない頃、僕は何をしていたかというと、職務質問を受けていた。

決して、奇声や奇行をしていたわけではない。ただ大きなバッグを後ろに背負い、小さなバッグを前に抱え、金髪であっただけである。

まだ宿も決まっておらず、朝早い時間であったため店も開いておらず、行くあてもなくふらふらしていたら、おっさん2人に握手を求められた。めんどくさいけど応じると、「警察だ」と言って手帳を突きつけてきた。

しかし僕は動じなかった。中央アジアの国で、外国人が職務質問されるというのはよくあると聞いていた。手荷物を検査させろと言うので、素直に従う。
変に怪しまれて、長引くのも面倒だったので、気さくの良いふりをして、要求されたものは堂々と、財布でも何でも差し出した。

ー回想 終了ー


そう、犯人はあの警官2人だ…!!
やけに何回も何回も財布の中をゴソゴソチェックしてた…
一回チェックし終わっても、「これは財布か?」とか言って再チェックには手抜かりがなかった。
「財布だっつってんだろ!」と思ってイライラしていた僕。油断していた…。


Ω<いやいや警官が犯人って被害妄想も良い所だろ。

違うんです!
警官が観光客から金銭を奪い取るというのはこれまた中央アジアではよくあること。特にキルギスタンの警察は腐敗していて、ギャングといっても過言ではないのだ。

Ω<それ知ってたんならもっと気をつけられたんじゃないの?

そうだけども!
いやなんかイメージしていた警官泥棒は、警官という身分を良いように使ってもっと無理くり「金出せ!出さなきゃ逮捕!」みたいに来るのかと思っていて…
まさかあんなお手柔らかな職務質問で近づいてきて、しかも全額でない金額抜き取るなんていう狡猾な知能犯のような手口で来るなんて…。

といってももちろん信用していたわけではなかったから、常にやつらの手元を見張っていたつもりだったし、警官が去ったあとも財布の中確認したんだよ!

けれど2人のうち片方話しかけてきたり、イライラしてたりで、気が散っていた瞬間があったのかも…。
財布の中の確認も全額数えるまではしなかった…。ソム札が入っていることに安心してしまった…。



あーくそっ!なんだよ!
やつらとの別れ際爽やかに笑顔で「パカ(じゃあね)」とか言ってしまったよ!
僕が悪いのか?!いや僕が悪いなんてあんまりじゃなか!?
あいつらが悪いに決まってるだろ!
いやでもやっぱり自分でしっかり確認してれば防げた損害なのでは…
しかし問い詰めた所であの2人が素直に白状したとは思えない…



ー以下 妄想ー

∑(゚Д゚)「2,200ソムしかない!おーいちょっとあんたら!」

(´・_・`)´・_・`)「なんだなんだ?もうお前に用はないぞ」

(´・Д・)「いやいや財布から金減ってるんですよ。さっき降ろしたばっかだしまだ一銭も使ってないからあんたらしかいないんよ。金返して」

(`ω´ )`ω´ )「なんだお前は!警官を盗っ人呼ばわりとか舐めてるのか!署まで来てもらおうか!」

ガチャ

Σ(゚д゚lll)「な?!」

ピーポーピーポー

署にて

(`ω´ )`ω´ )「まだ俺たちを盗っ人呼ばわりする気か!証拠でもあんのか!」

(♯`0´)「だって現にお金が財布から無くなってるんですよ!」

(`ω´ )`ω´ )「まだ言うか!罰金としてお前の所持金全額没収だ!」

Σ( ̄Д ̄ノ)ノ「ヒエーッ」

(`ω´ )`ω´ )「カメラも没収だ!」

Σ( ̄Д ̄ノ)ノ「ヒエーッ」

(`ω´ )`ω´ )「iPhoneも没収だ!」

Σ( ̄Д ̄ノ)ノ「ヒエーッ」

そして強制帰国へ…


ー妄想 終了ー



こうなっていたに違いない!
こうなることと引き換えに2,800ソム失ったんだ。2,800ソムを代償にして、僕は未踏の旅路を固守したんだ。


それならむしろ軽い方じゃないか!
なんて軽い被害!むしろ以後気をつけようという注意深さがより洗練されたことを考えると、±プラスなんじゃないか?
誰も悪くなんてない!いやもともと悪いことなんて起きてなかったのだ!
軽いどころか無害だ無害!
下手すりゃ有益な出来事だったと言っても妥当だ!


「あーなんて僕はラッキーなやつだー。」
顔面蒼白、鬼の形相でガサゴソとバッグと体を弄っていた僕は、自己防衛の思考が導き出した牽強付会な結論に、今度はニヤニヤしていた。
きっとその姿は気味悪く、職務質問されるなら、この時だったと思う。




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